戯作文

戯作とは、通俗小説などの読み物の総称で、戯れに書かれたものをいい、戯作の著者を戯作者という。 なら、戯作者の書いた戯作は戯作文。 そこかしこに書き散らかしたり、細やかにしたためた駄文の置き土産を、ここに印す。

オールド・グランダッド

ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルストーリー。
(登場する人物物語等は妄想と願望の産物であり、実在の人物等とは一切関係ありません、たぶん)


ウイスキーのスペルには2種類ある。
「Whisky」と「Whiskey」だ。
Japanese Whisky との出会いはいい印象ではなかった。
あの喉を刺すような味、水で割るしかないワンパターンな飲み方。
その点、若かりし頃に出会った Bourbon Whiskey は、アメリカへの漫然とした憧れみたいなものが潜在意識に作用していたのは否定できないが、新鮮だった。


銘柄は御多聞に漏れずアーリータイムズで、今ではボトルのラベルもシックに変わってしまっているが、黄色いラベルのオールドファッションなデザインが印象的だった。
何よりも、独特のコクと香りを持っていた。
それを、最初の頃はバーボン・バック(Buck=スピリッツにレモンジュースとジンジャーエールを加えてつくるのが一般的)でよく飲んだものだ。


一説によると、Bourbon Whiskey は、開拓時代に大変珍重され、カギのついた箱に保管されたといわれる。
カギ=Key でカギつきというわけである。
実際のところは、アイルランドで、「e」をつけ、スコットランド、日本、カナダでは「e」をつけない。
バーボンの故郷アメリカでアイルランド流の表記になるのは、「もともと他のウイスキーと俺っちのウイスキーは違うんだ。」と誇り、差別化のための「e」の表記だったわけで、そのアイルランドからの移住者が、バーボンウイスキーの生産に従事していたことを物語っているのだ。
(ただ実際には、アーリータイムズやメーカーズマークには「e」が入っていないところが又ややこしいのだが…。)


その後、松田優作が愛飲したたというオールドクロウをはじめとして、ワイルドターキーはもちろん、I・W・ハーパー、ヘンリーマッケンナ、ジョージディッケル(テネシーウイスキー)…そしてコーンウイスキー、ライウイスキーへとウイスキーはもちろんだが、悪魔の水の手招きに、果てしなきドツボの世界への彷徨、その序章が開かれたのであった。


その中で、拘りの伝統製法により、昔ながらの甘い芳香、ライ麦の風味がしっかりと感じられるのがこのオールドグランダッド、スムーズな飲み口が身上の6年ものだ。


??? オールドグランダッド(バーボン・ウイスキー)???


一方に名うてのプレイボーイ。
一方に「私、この店が大好き。だってマスターのファン(※)だもの。」というJ嬢。
(※ Love や Like でないところがミソ、その上ママあってのという大前提が決定的、ついでに言うと女性からお兄さんとかお父さんみたいな存在と言われるのも好きではありません)
出会わなければいいのになと、遠巻きに眺めていたのだが、やはり運命の糸は紡がれる。


J嬢は、化粧品会社の美容部員。
聡明で存在感があり、仕事柄その完成された化粧は、美しさを際立たせる。
昔風に言えばそうキャリア・ウーマンか、でたぶん成績もトップクラス、若い部下からの人望も厚く、彼女らを店に引っ張ってきてくれるものだから、カウンターは美女軍団で華やぎ、ファーマータナカは有頂天であった。
全てが順風満帆に見えた。


ポピュラーなI・W・ハーパ―が好きだった彼女にオールドグランダッドを薦め、やがて何時しか彼女はこの酒のファンになった。


その彼女が そのオールドグランダッドのロックを立て続けに何杯も流し込む。
人に弱みを見せない彼女が、酔っ払い、瞳の奥が微かに涙で潤む。


ファーマータナカは基本的には、男性女性にかかわらず、自らは客を店外に飲みに誘わないのがポリシーというか、御法度となっている。
ただし、最高経営責任者のママの決裁があれば、稀に店を離れることもある。
その時のCEOの目配せは、果たして許可だったのか否決だったのか、今となっては闇の中だ。


具体的に相談を持ち掛けられる訳でもなく、場末のスナックで、唐突に「東京」をデュエットで歌おうという。
(実のところカラオケは苦手な上、デュエット等歌う曲目を強要されるのはもっと苦手だ。)


♬  君はいつでもやさしく微笑む だけど心は空しくなるばかり
  いつか二人で暮らすことを夢見て 今は離れて生きて行こう ♬


遠距離恋愛のこの歌詞に、東京にあこがれた頃を、或いは純粋だった初恋を想い出しているのか、それとも今の別れの自分を投影しているのか・・・。
梯子酒は屋台での何杯ものコップ酒、だが冒頭にも記したように期待される結末(?)は当然無い。


J嬢はその別れの後やがて結婚、そしてほどなく離婚との噂を聞いた。


Bar という場は、そのために店をやったわけではないが、多くの出逢いと別離があり、悲喜交々のスートーリーがある。
そして遅かれ早かれやがて男は皆オールドなグランダッドになるし、ファーマータナカのその日もそう遠くない。


店に集ってくれた人達の、それぞれの非日常のドラマのワンシーン、それから延々と続くそれぞれの日常に思いを巡らし、今はそれらをひっそりと抱きしめ、優しい眼で見続けていきたい。
(2002.05.19記を加筆修正)

 

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