戯作文

戯作とは、通俗小説などの読み物の総称で、戯れに書かれたものをいい、戯作の著者を戯作者という。 そこかしこに書き散らかしたり、細やかにしたためた駄文の置き土産を、ここに印す。

チキンバス

中南米の旅行記などを見ると必ず「チキンバス」というものが出てくる。

中南米でなくても旅行をすれば、空港等のある場所からホテルや観光地へ移動する必要が生じるのは自然な成り行きだ。
移動手段は、タクシー、レンタカー、コレクティーボ(乗り合いタクシー)、旅行会社のシャトルバス、ツアーバス、ホテルの送迎バス、メトロ、そして「チキンバス」等といったところだろう。
もしあなたが、上品な方、或いはチキンな野郎なら、「チキンバス」に乗るのはご法度だ。
その余りの凄まじさに、こんなところには一瞬たりとも滞在できないと、すぐさま尻尾を巻いて国外退去するだろう。

何故「チキンバス」と呼ばれるか。
現地の人はスペイン語でカミオネタといい、庶民の大切な足として確固たる地位を確立している。
一説には、荷物棚の上に沢山の鶏を載せていたとも、乗客を限界までギュウギュウに鶏みたいに押し込んで走るためとも言われる。
アメリカのスクールバスの払い下げで、派手なペイント、恐ろしく燃費が悪そうな騒音と黒煙をまき散らしながら、カーブでもおそらく70km以上で突っ走る。
行く先の表示は一応あるが、「ガテ(グアテマラの事)」とか「ティグア(アンティグアの事)」とか大声でがなり立てられ、乗ろうにも思わず足が竦む。
どうも停留所はあってないようなものらしく、どこでも手を挙げて乗り込める。
始発の場合満杯になったら出発するので勿論時刻表はない。

一大決心をして乗り込むと、大音響の陳腐な音楽、不必要とも思えるクラクションの爆音連発が耳を劈き、一方通路は異常に狭く、その代わりシートは中途半端な2.3人掛け位の広さで、3人目は半ケツ状態で座る。
万一すし詰めでない場合、初心者はカーブではズッコケ堕ちる事必定だ。
屋根に乗せた大荷物の幾つかは、同じくカーブで落下しているだろう。

満杯で出発した筈なのに、何故かお構いなしに乗客を乗せていき、又いくらでも乗れてしまうのが流石「チキンバス」だ。 
それ故、若い女性やグラマーな女性の隣でもゴリゴリ座れる特典があるが、現実はおおむねお歳を召していたり、ムサ苦しいオヤジに当たる確率が高く、スリやバックを切られる窃盗に会う特典に差し替えられる場合が多い。

料金は安価だが初心者が解る術はなく、又支払は乗る時でも降りる時でもなく、途中で払う。
思いついたように車掌(と呼んでいいのか)役の兄ちゃんが、絶対無理と思える人の肉を無理くりかき分け進んで来て乗車賃を徴収する。
乗客も前から降りるのがが駄目なら、死んでも後ろから降りる。
又、溢れ返る乗客が何処から乗って来て幾らになるのかを把握している兄ちゃんは、プロの風上に置ける存在感だ。

途中山間部を通ったりするルートでは、強盗が乗り込んでくる事件も未だに散発しているといい、それでも毎日毎日これでもかこれでもかと、頻繁に騒音と公害を撒き散らかしている元気モンが、そう「チキンバス」なのだ。

乗ってみます?

 

f:id:farmert160:20171112105622j:plain

 

f:id:farmert160:20171112105646j:plain