戯作文

戯作とは、通俗小説などの読み物の総称で、戯れに書かれたものをいい、戯作の著者を戯作者という。 なら、戯作者の書いた戯作は戯作文。 そこかしこに書き散らかしたり、細やかにしたためた駄文の置き土産を、ここに印す。

ペルノー

ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルストーリー
(登場する人物物語等は妄想と願望の産物であり、実在の物等とは一切関係ありません、たぶん)

恐ろしい酒があったものだ。

1915年にフランス政府が製造販売を全面禁止した、“幻の酒アブサン”のことである。当初は薬酒として飲まれていたという。
初心者には、とても飲める代物ではない。
歯磨き粉のようなミンティーな味わいだが、独特なアニス風味は、日本人の味覚の範疇には属さないものだ。
ところが、くせになるというか、この味の虜になってしまうのだ。

退廃的な雰囲気だった19世紀末以降、ピカソロートレックヘミングウェイ、モネ、ヴェルレーヌ等アブサニストと呼ばれた芸術家がたくさんいて、そのうちの何人かはアブサンを飲みすぎて死んだといわれる。

その訳は、ワームウッド(Woomwood)とよばれる、ニガヨモギに含まれる、ツヨンというという成分だ。
常飲すると、眩暈がして、神経がおかしくなる。
中毒性があり、催淫、幻覚、錯乱、躁鬱症状となり、挙句は狂気や自殺にかりたてられるという。

そのために製造禁止となり、その代用として作られたアニス酒の代表が、これである。

成分がアルコールに溶解しており、加水するとあら不思議、魅惑的なグリーンが水に溶けにくい成分の膜を作って乱反射し白濁するのは、まさに魔女の仕業のようだ。

一方で、このアブサン「緑の妖精」の異名も持つ。

🍺🍺🍺🍺🍺 ペルノー (リキュール) 🍺🍺🍺🍺🍺


ファーマーズ・バーは所謂オーセンチックなバーというより、カジュアルなレストラン&バーだ。
従って、お客の一方にマニアックなヘビードリンカーも存在するが、一方に会話や雰囲気を楽しむ若い男女も多い。
そしてありがたいことにお客様にはアッパーなクラスの ご子息もそこそこいて、大切な収入源でもあった。

S氏は、美形の顔立ちで、品がよく、素面の時は口数も少ない。
当然お金にもきれいで、ひとたびご相伴にあずかれば、ファーマータナカはご本人よりも飲んでしまう程だが、当のS氏は涼しい顔だ。

今日は暇かもしれない。
薄暮の時、閑散としたカウンターの片隅の椅子にはひとりの女性客が留っていた。
シンガポールスリングのトールグラスは汗をかき、チェリーヒーリングの赤は既に色褪せていた。
おあつらえむきのシチュエーションだ。

ここはショートカクテルか、マルガリータいやホワイトレディーあたりでどうかと、頭の中のカクテルレシピをめくり始める。

「マスター、向こうの彼女に良かったら何か一杯・・・。」
「えっ、いいんですか。」

それからは、 S氏が紳士的だがやや饒舌になり、ユーモアたっぷりの言葉が投げかけられるまで、左程時間は必要としない。
いつしかいい雰囲気の時間がゆったりと流れていく。

仕上げにペルノーの水割りをオーダーすると、そろそろ次の店に移るシグナルだ。
彼が女性をエスコートするそのバーは、とある住宅地の高層マンションの最上階にあり、会員制の秘密のバーというふれこみで、ファーマータナカも招待されたことはなく、どこにあるのか、どんなカクテルが供されるか、知るよしもない。

二人はカウンターを立つ。
ペルノーの独特の残り香だけが、けだるく漂っている。

・・・そのバーが彼の自宅だったと聞いたのは、随分あとになってからだ。
(2002.06.09記)

※ アブサンはファーマータナカが飲食業を引退した後2005年に凡そ1世紀を経て原産地スイスで再び解禁になった。
伝統的な味わい方はアブサンカクテル(グラスの上にアブサンスプーンを置き、その上の角砂糖に1滴ずつ水を垂らす)だ。

 

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