戯作文

戯作とは、通俗小説などの読み物の総称で、戯れに書かれたものをいい、戯作の著者を戯作者という。 なら、戯作者の書いた戯作は戯作文。 そこかしこに書き散らかしたり、細やかにしたためた駄文の置き土産を、ここに印す。

新しく農業を志すあなたへ

ファーマータナカの新農業講座。

「新しく農業を志すあなたへ」

ファーマータナカは1997年大分県に新規就農者として入植し、農を営んだ経験を持つ。 今回は「アグレッシュおおいた」という大分県新規就農者の会のHPの体験談コーナーに寄稿の拙作を転掲するので、余計なお世話とソッポを向くかせめて反面教師としてほしい。

【プロローグ】
ファーマータナカは強運の持主だ。
その証拠にこれから列挙する事以外にはあと僅か100項目位しか失敗の記憶がない。
先人は成功より失敗から学べと教えている。
3日3晩居眠りしながら徹夜し、掻き集めた失敗談が、これから農業を志すあなたの道標となれば不幸中の幸いである。
(あくまでも新規就農を歓迎する趣旨なので、誤読無きようお願いしたい。)

【病害虫の章】
(防除)
ハウスから顔を引きつらせて(いつ引きつっていないのかと言われれば返答に困るが)帰ってきた会長(=妻)が、こう言う。
「ハウスのベッドの上で何か小さいものがいっぱい動いている。」と。
妻が達者なのはファーマータナカに悪態をつく口だけで、あとは私の欠点だけはよく見え、私の悪い噂だけがよく聞こえるに過ぎない。
だが無視すると後が怖いのでしぶしぶ現場に行くと、そこには夥しい数(おそらく全体では数万~)の1~2mm位のピンクがかった何かが蠢いていた。
正体はハモグリバエという害虫の幼虫が蛹になる前に、食害したトマトの葉から一斉に落下したものだった。
(教訓)「生きる事は戦いだ。他人はみな敵だ。」と昔読んだ石川達三の「青春の蹉跌」の冒頭にあったが、「農業は病害虫との戦いだ。他人はみな敵だ。」と言える。
こうなるまで放っておかないで、予防防除が鉄則だが、予防とは発生前にするものであり、既に大半の病害虫が発生してしまっている場合、もはや予防は出来ないのが農業の難しいところだ。

【田舎暮らしの章】
(お酒) 就農しで間もない1月2日(運悪く妻の誕生日でもあった)、新年の挨拶にと、地区の長老に誘われて、村長だ村会議員だと引っ張り回され、遂にアルコールの魔の手に海馬を襲われる羽目に。
それでも帰宅後ハウス管理に行くと家を出たがそのまま音信不通。
ハウスに通じる坂の下で頭から血を流して失神しているのが発見された。
ハウス管理どころか、自分自身が当分厳戒管理化に置かれる事となった。
(教訓)田舎では特に、酒によってコミュニケーションが図れるというが、実際何を話したかはもとより、次の日「あんた誰だったか?」ということも多い。
飲酒運転の取締が強化されてお断りする口実が出来た事がせめてもの救いである。
余談だが、記憶をなくすまでお酒を飲むなんて酒飲みの風上にも置けない。
ファーマータナカは(深酒をしなければ)記憶をなくすことなど有り得ない。
問題はついつい毎回深酒をしてしまうことだけだ。

【商いの章】
(市場価格) 就農当事、サラダ菜の最低価格はなんと1円であった。
安いというより、もはや「あんたの作った野菜なんていりません。」という意思表示であろう。
(教訓)できることと、売れることは違う。
ファーマータナカが自称イケメンであるのに、必ずしももてるわけではない、いやもてないかもしれない、絶対もてるはずがないということとよく似ている。
消費者のニーズというが、食料を輸入(自給率40%)しながら、自給率に匹敵する量を廃棄する日本国民(おっと、自分もそうだ)のニーズは計り知れない。
時々圃場での野菜の大量廃棄のニュースを見かけると思うが、なぜそうしなければならないか、身を持って体験することができる。

【災難の章1】
(火災) 1月10日(運悪く結婚記念日から4日後だった)午前4時半頃、昨夜の10時、夜中の2時に続いて薪ストーブの点検と薪の追加にハウスに向かうと、急に夜明けが早くなったのか、未来が拓けてきたのか、ハウス内がボーッと明るい。
だが現実は漆黒の闇に突き落とされる事件・・・ハウス火災であった。
農業への闘志を燃やさないで、ハウスを燃やした農業者が果たして何人いただろうか。ウン千万円の設備はまたたく間に、藻屑と化した。
(教訓)重油代高騰の煽りを受けて導入した、ハウス暖房用薪ストーブであったが、被害額は投資額の200倍となった。
費用に対して、効果が少ないどころかマイナスとなる非常に稀有な例である。
ただ費用対効果を突き詰めると、転職した方がよいという結論になる場合が多いので、農業を始めたり続けたい場合は計算間違いをする事が肝要である。

【災難の章2】
(車両事故) 夕方直売所からの帰り、急に冷え込んできた気配があり、又何となくブレーキの効きがわるいようなは感じはあったが、さほど気にせず走行していた。
比較的長い橋にかかった瞬間、軽トラは華麗にスリップ、反対車線に飛び出し慌てて急ハンドル(スリップ時の急ハンドルは危険だとちゃんと妻には教えている)、今度は左側の電柱に助手席が正面衝突して停車した。
車は廃車となったが、助手席に妻が同乗していなかったことが、せめてもの幸い中の不幸だ。(?)
又、別の日の早朝の県道で、物凄い衝撃で落石に激突、乗用車(運悪く妻の車を借りていた)は華麗にジャンプ、反対車線に飛び出し慌てて急ハンドル(ジャンプ後の急ハンドルは危険だとはまだ妻には教えていなかった)、今度は左側のガードレールに激突後たっぷりと左側をこすって停車した。
(教訓)農業者には車両は必須だ。
農協や直売所への出荷、又圃場があればトラクター等にも乗らねばならない。
特に中山間地の場合は、道路は狭く蛇行しており、高低差も大きい。
凍結、積雪、落石をはじめ、猪、狸、猿等選り取り見取りだ。
信じられない時間帯や場所で、村民(特に高齢者)に遭遇する事もあるので、走行には細心の注意以上のあきらめが必要だ。
できれば10km位の速度が望ましい。
反面「地区の境の短いトンネルを抜けると雪国だった。」と安易に文学者気分を味わえるメリットもある。

【天変地異の章1】
(台風) 2004年9月5日、台風18号により停電となり、山間部のため、復旧まで4日を要した。
養液栽培で、水分と肥料分はあるのだが養液を循環するポンプが回らず、結果的に酸欠となり全滅した。
回復を祈る無神論者の「苦しい時だけ神頼み」の奇跡はもちろん起こらなかった。
(教訓)近代的農法と言えば聞こえはいいが、日本の農業は完全な石油依存型で、基盤は脆弱だ。
電気も肥料も農薬も動力燃料費も石油なしでは成り立たない。
また自然の驚異の前にはたとえ堅牢なハウス、馬鹿高いだけの設備でも、ひとたまりもない事態となる。
奢れる者久しからずだ。
人間は自然を征服も支配も出来ない。
作物の種子の持つ能力の恩恵にかろうじて与る謙虚さが必要だ。
【天変地異の章2】
(台風その2) 別の日、明け方からの風雨の強まりに戦慄を覚えたファーマータナカは、ノコノコと葉菜栽培施設に付帯する作業用ハウスの点検に向かった。
ハウスに何とか辿り着いた瞬間、バタバタという強烈な振動と異常音がしたかと思うと、一挙にビニールは天空に吹っ飛び、ファーマータナカも宙に舞い上がらんばかりであった。
(教訓)台風の度に、屋根から落ちたり、川に流されてお亡くなりになる方がいるが、様子を見に言ったところで、台風の進路を変えることはできない。
運が悪ければ自分の進路が変わる事となる。
ファーマータナカが強運なのは、そばに川がなく、登る屋根が無かった事だ。

【エピローグ】
こうやってみてくると、ファーマータナカの農業は失敗てんこ盛りで、成功は何一つもないと思われるかもしれない。
(当たっているが、世の中には思ってもいいが、言ってはいけない事がある)
だが、そう思うあなたに次の文章を送ってこの稿を終える事としよう。

「自分のキャリアで、俺は9,000発のシュートを失敗し、ほぼ300試合が負け試合だった。26回ほど、決勝点のシュートをミスってる。そう考えると、人生で何度も何度も失敗しているんだ。だが、何度も失敗したからこそ俺は成功した。」
マイケル・ジョーダン

あなたそしてファーマータナカがいつの日かマイケル・ジョーダンになれる事を祈りつつ・・・。

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