【 ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルストーリー 】
(登場する人物物語等は妄想と願望の産物であり、実在の人物等とは一切関係ありません、たぶん)
世界的には有名であり、ショットバーには定番として置いておかなければならないけど、実際にはなかなか飲んでもらえないお酒がある。
ヨーロッパではきっとこんなことはないはずなのに、 今日もひっそりとカウンターのバック棚であいつを待つ。
中世の錬金術の副産物として生まれた蒸留酒、その蒸留をする際に、薬草や香草類を添加したのがリュールの始まりといわれている。
100種類以上の薬草が配合されているが、このリキュール今も修道士が配合しており、そのレシピは秘伝、3人しか知らないという。
普通は食後酒としてストレートやオン・ザ・ロックなどで飲んでもらうが、度数も55°と高く、そこはこだわらなくてもよい。
繊細で甘美で一見ソフト感も合わせ持つが、刺激的な味ではある。
私は、リキュールの女王と呼ばれる。
🍸🍸🍸 シャルトリューズ・ヴェール(リキュール)🍸🍸🍸
F氏が、バーに現れると、覚悟を決めなければならない。
朝まで店を開けて酔い潰れてもらうか、 とっとと店を閉めて一緒に梯子酒を決め込むかの、どちらかだ。
風の噂では、若い頃東京に出て、美術学校に通ったり、新宿あたりの呑み屋でバイトをしてたという。
歳に似合わず、ルーブル等の世界遺産や或いは小津安二郎や今村昌平を愛していたふうだが、決して権威主義者というわけではない。
議論好きで、天邪鬼で、大酔っ払いロマンチストである。
お天道様が高いうちは、お店のコンセプトとは裏腹に(一応アメリカンだ)、モレッティ(イタリアビール)を飲んだり、わざとリザーブ(サントリー)をオーダーしたりする。
だがシンデレラタイムを回ると、突然スピリッツの神々に憑依されるのか、重なる重なるハードな杯、とどめのつもりに「シャトリューズ」や「シャリュトルリューズ」(ん?)をオーダーするのである。
要するに呂律が回らないのである。
最早議論どころの騒ぎではない。
・・・今宵の選択は後者だ。
その日は数件のバーを追い出され、屋台を追い出され、24時間営業のファミレスのビールが打ち止めであった。
F氏は、自分の部屋へ向かう階段の途中で、あられもない姿で大いびきをかき、生ける屍(しかばね)になっていたとの目撃情報がある。
そのルートには、靴、衣類、財布、眼鏡、鍵が順次点在していたという。
私がその一日を棒に振ったのは言うまでもない。
リキュールの女王だけが、微笑んでいる。
(2002.02.11記を加筆修正)