戯作文

戯作とは、通俗小説などの読み物の総称で、戯れに書かれたものをいい、戯作の著者を戯作者という。 なら、戯作者の書いた戯作は戯作文。 そこかしこに書き散らかしたり、細やかにしたためた駄文の置き土産を、ここに印す。

娘の誕生日によせて

今日は娘の誕生日だ。

FBをはじめ、SNSという素人衆には極めて危険な面もあるのだが反面便利なものが出まわって、本来なら断絶したやもしれぬ親子孫のコミュニケーションにも有用なツールとして重宝する時代となった。
そこで拙文を書いてみたが、娘のタイムラインにアップするのは迷惑かつ小っ恥ずかしいかとも思い、自分のところにアップすることとした。
娘のところにはリンクでも貼っておこう。

「あなたの周りには、あなたを気づかい支え声をかけてくれる多くの友人がおり、そのことが認知でき、感謝できるだけでもFBなるしろものの効用は余りある。
あなたの誕生日にあたり、ここにあなたとママとパパのちっぽけでありきたりな歴史の一端を記してあなたのこれからの人生のエールとしたい。

先日福岡から帰る西鉄電車の中で、隣にあなた達位の年恰好の親子が座った。
パパは本来自分自身が好きなだけで、子供は余り好きではない性格みたいだ。
今までのパパだったら、隣り合わせた不幸を恨み、本が読めなくて苛立っていただろう。
その子はそんなに悪い子ではなく、愚図り出して結局終始収まることはなかったが、その子の問いかけに丁寧に答え、ある時は優しく注意しお願いし、しっかりと抱きしめ直す母親を見て、母とは女性とは、何と強く気高い存在なのかと再認識した次第だ。
この時は、子供の方も言葉遣いもちゃんとしていて、キレた様子がないのが又素晴らしかった。
パパは、その母親の愛のお裾分けに、何となく暖かくて幸せな気分になっていたんだ。

何が言いたいかというと、子供を持ったあなたを見るようになって、あなたの、ママの、そして女性という性の強さと愛情深さに、遅きに失したが、今更ながらほんの少し気付いたということだ。

一方の親父の話になるが、パパ達の時代まで位は、一般的に多くの父親は仕事が全てであり、それが家族への愛の証だとの刷り込みがあった。 しかし今振り返るとただ自分がやりたいことを、ただ自分のために闇雲にやってただけと言えそうだ。
単なる我儘、得手勝手、自己合理化。

さて個人的な話に戻すと、特にあなたの子供の頃には進学も、就職も、結婚も、父親として、こうすべきだとの強制はおろか、的確なアドバイスさえもしていないと思う。 そっちを向いていなかった、あるいは向いてても言えなかったという解釈も成り立たないわけではない。
ママに言わせれば、家族のことはほったらかして好き放題の挙句、今頃になって父親面をしているにすぎないということらしい。

後付けでは何とでも言えるが、それでも、その時々に示せる色んな選択肢を出来るだけ与えること、たとえ間違った選択に見えても、その意思を出来るだけ尊重し、手助けすることだと思っていた。(ということにしたい)
そしてパパができることは、今までもこれからも、最終的にもしあなたが傷つき、打ちひしがれ、悲しみを抱える時があるとしたら、そっと抱きしめて一緒に涙を流すこと位だ。

若気の至りのパパの学生結婚、遊びたい盛りのパパ達は、あなたを寝かしつけて夜の海に遊びに行ったことがあった。
帰ってみると、玄関口までハイハイをして泣き崩れて眠っているあなたの姿があった。

早期の転職とという波乱の幕開けとその展開につき合わさせられることとなったあなたの人生は、やがて北海道へと向かうことになる。
開陽小学校までの往復10kmの山林の道程を通わせたが、自然の驚異や地域の苛めや孤独感の矢面に立ってあなたを守ってきたのはママだった。
中標津町の山奥から釧路までの100kmのアイスバーンの道路を、何度かスピンしながら時速100kmで疾走して買物や映画に何度も連れて行ってくれたのもママだった。

一方のパパは、これ又自分が行きたいだけの、聴いても解ろうはずがない屈斜路湖ジャズフェスティバルで、あなたを肩車していた程度だ。
それでも汗だくの通学時の姿や、仔牛と戯れる小さくて可愛いつなぎ姿のあなたは、今でもパパの目の奥に焼き付いている。

突然久留米に戻りお店をはじめると、あなたは大宰府の御祖母ちゃんに預けられた。 酔っ払い学生客は朝まで帰らず、あんな店がしたいこんな店をすると、酔っ払いマスターは仕事をしているつもりになっているだけの傍らで、徹夜明け一睡もしないで、あなたとの時間を持つために実家に向かったのもママだった。
小中高と学校と家庭で小さな胸を痛めた事もあっただろうが、その詳細をパパが知る由もない。(あとから少し聞いた)
そのうちのいくつかはママが盾となってくれたはずだ。

やがて、大学が静岡県清水市で、学部が海洋学部というのも、あなたらしい選択だった。
サーフィン漬けの大学生活で、ホントに真っ黒けで帰省する姿に眼を丸くしていたのもママだった。
一緒に旅行したナイルの川下りでは一家遭難しそうになり、サンディエゴではパパと二人で車で出かけて迷子になって、ホテルに残したママに心配をかけた(というより一人残されたママ自身が心配だった)。

パパの実家は貧乏だったが、(今は自分も貧乏だ)当時は時代がバブルだったせいもあり、辛うじて金銭的にはあまり不自由をかけなかったのがせめてもの誇りと救いだった。

例によってパパの突然の「農業をやる。」の気まぐれ宣言により、あなたは陸の孤島上津江村に行くこととなった。
相変わらず自分しか見ていない拡大志向のパパのために、経営や夫婦の確執に巻き込んで、随分苦労をかけてしまった。
上津江では、ある選挙のとき、「Mちゃんによう似とる女性が選挙に来とる。」との村のうわさ話が傑作だった。
母親に決まってるだろうちゅうーの。
あなたとママはお互いイヤかもしれないが背格好(&時々きつい性格)がよく似ている。
あなたとパパは出たがり屋だったから、ド田舎でもそれなりに認知されていたけど、ママはひたすら仕事と山中のひめ(犬)の散歩だけで表に出る人ではなかったから、認知度が低かったのだ。

又、あなたの田舎での結婚式は、酔っ払い親父軍団の単なる狂乱ド宴会、御返盃の雨嵐となり、ママ方の親戚はあきれ返っていた。

家庭を持ち、家を持ち、そして又新たな仕事にチャレンジし、大変なわりには休日の度に出歩き廻り、ママのLINEにはいいかげんに返事するあなたに、ママは閉口し、パパは微笑ましく思っている。

さて、あなたは自由だ。
誰のためではなくあなた自身のために(子供のためを含み、親父のためは?でよい)これからも前を向いて歩いて行くなと言っても行くだろう。
最後まで味方するのは、友達とママとパパだ。
出来るだけ応援したい。
お誕生日おめでとう。」
(2015年5月8日記)

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マルガリータ

ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルストーリー。
(登場する人物物語等は妄想と願望の産物であり、実在の人物等とは一切関係ありません、たぶん)

マルガリータ」、英語ならマーガレット、イタリア語ならマルゲリータ
元々スペイン語マルガリータ (margaritas) とはヒナギクdaisy) の意。

日本では、デュレッサーというバーテンダーの、若き日のメキシコ人の悲劇の恋人の名で、狩猟に行った際流れ弾に当たってなくなったのを偲んで考案、カクテルコンテストに入賞という説がまことしやかに流布されているが、これはどうも眉唾物らしい。
原型となるカクテルは、1930~40年代にメキシコ・アカプルコの Barで生まれ、その後その地に別荘を持っていたマーガレット・セイムズなる女性がこのカクテルをいたく好んで米国内に広めたという、さして面白みのないところが史実らしい。

カクテルの基本は、アルコール・甘味・酸味の三位一体のバランスともいえ、その点マルガリータはキホンのキ的存在。
一般的レシピはテキーラ30ml、ホワイト・キュラソー(またはコアントロー)15ml、レモン(またはライム)ジュース15ml、塩でスノー・スタイルにしたカクテル・グラスに注ぐ。

因みに、ベースがブランデーで、「サイドカー」、ジンで「ホワイト・レディ」、ウオッカで「バラライカ」、ラムで「XYZ」と、それぞれメジャーなカクテルに変身するので、バーテンダーには必須のレシピだが、スノー・スタイルにするのはマルガリータだけで、ひとクセのあるテキーラには塩はとても相性がいい。
女性にひけらかしたい殿方は、コアントローブルー・キュラソーに変えて「ブルー・マルガリータ」、グランマルニエで「ゴールデン・マルガリータ」を覚えておくとよい。

ついでにいうと、テキーラはサボテンから作られるとの誤解があり、原料は「リュウゼツラン(龍舌蘭)」といいアロエに近い植物であることもおさえておこう。

🍸🍸🍸🍸🍸 マルガリータ(カクテル)🍸🍸🍸🍸🍸

今日は余りツイてない。

島への渡船場のバス停を、案の定降り損ねて一駅歩いて戻ったせいで、1便乗り遅れてしまった。
ラテンアメリカの人々は総じて気さくで好意的なのだが、島では、さして忙しくなさそうな地元の食料品屋さんで、中国人らしき主人に道を尋ねたら、如何にも「しっーしっー!」と言わんばかりに厭な顔をされた。

それでも何とか気を取り直し、さほど乗り心地の良くないレンタサイクルで島をほぼ一周、カリブの青さを満喫してきたところだ。

メキシコの東北部ユカタン半島の突先、カリブ海の北部に浮かぶ島イスラ・ムヘ―レスは、スペイン語で「女たちの島」という意味だ。
辿り着いた目的地「プラヤ・ノルテ」ビーチ、その砂浜の上に陣どったホテルのバーのカウンター、奇を衒ったようなブランコの椅子はさておき、何と開放的で心地よい空間なんだろう。

そういえば昔縁あってアメリカを旅した時、サンディエゴからメキシコ国境の町ティファナまで無理くりレンタカーで足を延ばしたことがあった。

只々どうしても本場のマルガリータを飲んでみたくて・・・。

対面のカウンターから、午後の日差しが、一人の女性のなびく長い髪と煙草の煙を照らしながら煌めいていた。
まさかこんなところで会うはずもないと目を閉じてみると、瞼の奥にある像が結ぶ。

マルガリータをお願いします、すいませんがシェイクで。」

 中米では、かのダイキリもそうだが、フローズンスタイルがポピュラーだ。
バーテンダーは chino(中国人) か japonés(日本人) かといくらか怪訝そうだったけど、今はどうしてもシェイクが飲みたい気分になっていた。

 

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★★★

なにげなくBar の入口のドアを見やると、ガラス越しに、長い髪が見える。
ドアが開くと、一直線にカウンターに近づく。

マルガリータを。」

彼女はメニューを見るでもなくすぐさまそうオーダーすると、おもむろに煙草を取り出し、カクテルが供されるまでの間、暫し煙をくねらせた。

ファーマータナカは長い髪に弱い。(他にも色々弱い)
森昌子でも直毛になる時代、今では逆に髪が綺麗でない女性を探す方が難しくなった程だが、昔は長くてサラサラの髪の女性とすれ違うと、思わず振り返ったものだ。

今思うに、M嬢、決して超美人だったわけではない。
長い髪の彼女、一見派手だが清楚さも同居していて、煙草はそのかすかに見え隠れするぎこちなさとミスマッチにも思えた。

広告業界という仕事柄、営業時はもちろんだが特に締切日に、相当のストレスとプレッシャーが繰り返されているだろうことは、営業畑をかじったファーマータナカには痛いほど解りはする。
締め日の夜、彼女の同僚達が、店はとっくに終了しているのに押しかけてのその弾け振りを見るにつけ、その過酷さが納得できるというものだ。
大企業であれば、将来に向けてまだ踏ん張り甲斐もあり、ゴールも見えなくはないかもしれないが、地元の新興企業では、到底先は見えないだろう。
しかし、彼女の口から愚痴らしきものを聞いた事も、どうしても広告をと泣きつかれたという記憶もない。

彼女に繰り返される1ヶ月毎の緊張と解放、そのインターバル時に味わうこちら側の緊張感とときめき感、その少し甘酸っぱくでしょっぱくもある感覚が、好きだった。

「マスター、とりあえず1ヶ月私と煙草止めてみない?」

長いストレートの髪をいつものように掻き揚げると、M嬢は唐突に呟いた。

「いいですよ。さて、何を賭けましょうか?」

二つ返事の安請け合いはしたものの、実はファーマータナカは筋金入りのヘビースモーカーだった。
1日100本のスモークがまさしくチェインになっている、意志薄弱な依存者だった。

それからちょうど1ヶ月後の約束の日、二人はカウンター越しに向かい合っていた。

「禁煙達成おめでとう。」

お互い自腹のマルガリータで乾杯、まではよかったのだが、その瞬間彼女はいつものように煙草を取り出すと、何事もなかったように煙をくねらせ始めた。
一方のファーマータナカは、その1ヶ月の必死の我慢を水に流すには何だかもったいなくて、ズルズルと今まで禁煙を続けている次第だ。

そしてそのマルガリータがM嬢の最後の一杯だったと解ったのは、それからちょうど1ヶ月後ということになる。

★★★

気が付くと、波に照り返す光はいつのまにか明らかに柔らかくなっていて、そろそろカンクンの安宿に戻る時間だと告げている。
薄汚れたベッドで、行き当たりばったりの明日の計画を、又立てねばならぬ。
何がうれしいのか、決して楽ではない、「老いらく」の旅はもう少し続く。
(2015/12/01記を加筆修正)

 

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ズブロッカ

ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルストーリー。
(登場する人物年齢物語等は妄想と願望の産物であり、実在の人物等とは一切関係ありません、たぶん)

ロシア北部や北欧は寒さが厳しい(らしい)。
身体の芯まで素早く温めてくれるもの、とにかくアルコール自体が必要で、味や品質は2の次なのだ。
中世ではまだ蒸留技術が十分ではなく、残留物や癖のある風味を消すために、香草や果実で味付けするフレイバード・ウオッカが生まれた所以でもある。

ポーランドで保護獣となっている野牛「ズブラ」が好んで食べるという「バイソングラス」、ウオッカにそのエッセンスとその草自体も加えると、和風なテイストで言えば桜餅のような甘い香りのウオッカに生まれ変わる。
ただしこのバイソングラスに含まれるクマリンという成分、発がん性や肝毒性が指摘されているのだが、計算上1日50L(500mlボトルだから100本か)程で障害が出るというが、そんなに飲むならアルコール自体の危険度の方が心配だ。

🍷🍷🍷 ズブロッカ(フレーバード・ウオッカ) 🍷🍷🍷 

来店頻度はそう多くはないが、控え目で息の長いお客さんがいる一方で、鮮烈デビューの途端、毎日のように通い詰めたかと思うと、ある日突然来店が途絶えるるお客さんもいる。

T君は、歳の頃は16~7歳か、いわゆる不良という単語がぴったりの人相風体だ。
きっと喧嘩の勲章だろう、上の前歯が見事に1本欠落しており、笑うとまるで漫画のように滑稽だ。
初来店なのに馴れ馴れしく、ちょっと眉を顰めたくなったというのが第一印象だ。
若さ故の一挙一動は、手に取るように背伸び感ミエミエだったが、反面それが御愛嬌で憎めなくもない。
デビューのビールは鮮やかな極楽鳥をデザインしたパフアニューギニア産、その後の一撃は、なるほどスピリタス(96°のポーリッシュウオッカ)というのも頷けた。

その後は、年上でド派手な、今で言えばキャバ嬢風の彼女と手を繋いでやってくることも度々あった。
身振り手振り口振りはいかにも男尊女卑というか亭主関白風、だが本性なのかテクニックなのか、絶妙なタイミングでの優しさも併せ持っており、それはそれで実はちょっと羨ましくもあったのだが。

まだ来店し始めて間もない頃、神妙な面持ちで、
「マスター、是非大切なお話があるんで、時間を下さい。」
とか宣って、結局マルチ商法の勧誘だったこともある。
まあ、私を引きずり込むには100年早かったけれど・・・。

とはいえ、自分が彼と同じ年頃だった頃の事を思い返してみると、「自立」とは程遠い、甘ったれの最中にいたことは否定しようもない。
T君は、複雑な家庭環境もあったのだろう、傍から見れば危なっかしくてハラハラドキドキなのだが、酒も女性も仕事も、少なくとも自分の足で立っていることだけは相違なかった。

そんなこんなで、何故か妙に気にいられる事となり、きっと兄貴くらいに思ってくれていたのだろう。
その後しばらくはカウンターに座ると、冷凍庫でキンキンに冷やされた、微かにオリーブ色のトロリとしたズブロッカを愛飲し続けた。
ストレートグラスでのバイソングラスの微妙に甘い香りと酔いにしばし御満悦だった。
一方差しで毎回付き合うこととなったこちとらは、仕事とはいえウオッカのストレートがしんどいと思う前半戦があったのも事実だ。(アルコールが回り始めた後半戦は大丈夫だ)

T君の杯がチョット進み過ぎたとある日、キタキタ、
「マスター、今日は是非とも招待したいのでこれから付き合って下さいよ。」
と言い出す。
断ると後が結構面倒そうだし、兄貴としてはたまには面倒見てやらないとと観念しつつ内心喜ぶ。

結末は見えていた。
普段あまり足を踏み入れない文化街という歓楽街を梯子酒、上機嫌だった当の本人は、程なく呂律も回らなくなり千鳥足、止(とど)めに大ゲロを吐けばもうヘロヘロで、だがそれが妙に可愛らしくも思えたのであった。
何とかアパートを聞き出し送り届けたつもりだが、場所や時間を含めたご乱行は、次の日目覚めるまでに、完璧にディスククリーンアップされる「生き抜く術(すべ)」設定になっている。

その後ぷっつりと来店しなくなるのは、よくあるパターン。
忘れかけた頃、さも有りそうな話で、ホストクラブに仕事を変えた、という風の便りが届く。
野生のバイソンのボトルを見ると、何とか逞しく生き抜いていってくれと思う。

 

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ブラッディマリー

ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルエッセイ(&新農業講座)。

ファーマータナカは自慢ではないが(こう言う場合はたいてい自慢だ)、日本バーテンダー協会(NBA)2級の資格を持つ、元プロのバーテンダーである。
しかも、酒道を極めるため、己の肉体と精神を犠牲にして、人の何百倍ものテイスティングを日課としてきた。
ただ1回の利き酒の量がたまさか多かっただけで、決して好き好んで飲んだくれてきたわけではない。

季節柄、一般的にトマトは夏の野菜というイメージがあるが、トマト農家でもあったし、トマトジュースも作っていたプロから言うと、トマトは積算温度で赤くなるので、夏のトマトはどうしても水っぽくなってしまう傾向がある。
実際のところトマトは高温多湿を嫌い、かつ日光の要求度も高いので、4~5月が一番糖度が高く、美味しくなるのだ。

ということでトマトがらみの話を少ししよう。

「ブラッディマリー」という、有名なカクテルがある。
「血まみれマリー」の意で、イギリス・チューダー王朝時代の女王メアリー1世に由来しており、彼女はスペイン王朝の血を引いておりかつ熱心なカトリック教徒であったので、宗教改革を徹底的に弾圧し、処刑された人は300人以上にものぼるという。

一般的レシピは、ウオッカにセロリ等の野菜スティックや、タバスコ、ウスターソース、食塩、こしょう等を添えてお好みでアレンジという事になっているが、ファーマータナカのフルーツトマトュース「森のトマト姫」とミックスすれば、何も足さない、何も引かないでよい。

ただ仮に「(」からトマトジュースを引くとただのウオッカになってしまうが(当たり前だ)、おっとどっこいウオッカを引くと、トマトジュース(+α)が「バージンマリー」というカクテルになるところが、お酒の世界の深淵さでもあり、ファーマータナカが求道者として探求を止められない所以でもある。

それと一般的に、このような「混合」の意で飲料に用いられる言葉に、「ミックス」と「ブレンド」という表現があるが、「ミックス」は異種混合、「ブレンド」は、同種混合と考えればよい。
従って「ブラッディマリー」は「ミックス」となり、例えばコーヒーやウイスキー同士の混合は「ブレンド」となるのだ。

ついでにいうと、ウオッカをジンに変えると「ブラディサム」、テキーラに変えると「ストローハット」、アクアヴィットに変えると「デニッシュマリー」、トマトジュースをはまぐりやアサリの入ったスープにすると「ブラッディシーザー」となる。

又ビールに変えると「レッドアイ」(以前フレアバーテンダーのコンクールでの課題カクテルの部で、サッポロビールと当社のフルーツトマトジュースが採用されていた事も、自慢だが付け加えておこう)となる。

二日酔の時の迎い酒で赤い目で飲むというのが名前の由来という説もあるが、トム・クルーズ主演の映画「カクテル」で、「レッドアイ」に生卵を入れるシーンがあり、「世の中には生卵を割り入れずにレッドアイを出すアホが多いが、卵を入れなきゃ『赤い目』にならない。」というセリフがあったのを覚えている方もいるだろう。

もっといってみよう、「レッドアイ」のビールを黒ビールに変えると、「ブラックアイ」、ノンアルコールビールで割れば「バージン・レッドアイ」となっていく。

それから、元々「ブラッディ・マリー」はビールをチェイサーとする飲み方があるが、そのビールで「ブラッディマリー」を割れば、ということは「ブラッディマリー」と「レッドアイ」を足して2で割るということか、「レッドバード」というカクテルになる。

こうしてプロのバーテンダーは億千万のレシピを、スカスカの脳細胞に過酷にも刻んでゆくのだ。

しかしここではたと思うに、ファーマータナカの、極上のカクテルのために極上のトマトジュースを求めて自らトマトから作ることにしたこだわりのプロ意識、はたまた「ブラッディマリー」「レッドアイ」の、迎え酒としての味と効用を確かめるために、わざわざ何千回も二日酔いをしてみる程のバーテンダーとしての矜持は見上げた根性ではあるが、農業とバーテンダーはリタイアできても、度を越した大量飲酒と二日酔の癖が未だに抜けないという俗界の不条理は、ホトホト困りものだ。

もっとも、もっと困ってあきれ果てている方もおられるが・・・。
(2009/03/24記を加筆修正)

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アルコール依存症

ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルストーリー番外編。

アルコール依存症」。

シアナマイドノックビン・・・・。 この単語をきいてピンときた人は、ドクターか、私と同類の霊長類ヒト科アルコール依存予備軍目である。

人は太古の昔から、酒を作ってきた。
ウスケボー(ウイスキーの語源)、アクアヴィテ(北欧のアクアビットの語源)、オードビー(ブランデーの語源)ジーズナヤ・ヴァダー(ウオッカの語源)等々これらすべては確か、「命の水」といった意味合いの言葉だったと思う。
(ただしほとんど消えかかった記憶をもとに書いているので当然責任は放棄する。)
酒が百薬の長と称される所以である。

この「命の水」が一転「悪魔の水」になってしまう。

都会でもかくれ依存症の人は結構いるのであるが、その点、田舎ではのべつ幕なし飲んでいて、危ない方が結構いらっしゃるし、よく見えやすいという事情はある。
しかし、例えば畑仕事や山仕事に従事し、体力も使い、日々汗を流すので依存症の発現がいくらか遅くなるのか、又はみんなが酔っ払っているから認知できないかのどちらかだと思われる。

そういうファーマータナカも、試しに本や、ウエブ上のアルコール依存症のチェックシートなどをやってみると、ほとんど100%の確率で依存症とでてしまうので、あなたもぜひ一度お試しあれ。

アルコール依存症は、「ブレーキの壊れた車で急な坂を下っているようなもの」と比喩される。
ぐんぐん加速度がついて、結局は破滅にむかうか、あるいは、途中で飛び降りるかのどちらかなのである。
小生は飲みながら、「明日以降に必ず飛び降りよう。」と決心しているまじめな性格の持ち主ではある。

冒頭の単語は、抗酒剤(酒量抑制剤)と呼ばれるものである。
アルコール増強作用、アルデヒド脱水素酵素阻害作用があり、これを飲んでお酒を飲むと、とにかく無茶苦茶気分が悪くなると言った知人や故人が最低3人はいる。

愛すべき呑ん兵衛の仲間達よ、自制か破滅かの選択は勿論貴方自身の中に存する。

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ペルツォフカ

ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルストーリー
(登場する人物物語等は妄想と願望と誇張の産物であり、実在の物等とは一切関係ありません、たぶん)

ありきたりでは満足しない。プラスアルファにこだわる。

もともとは、アルコール分は、90度前後という高濃度のスピリッツで、
これを水で割り、白樺の炭などの活性炭でろ過する。
だから本来は、ほとんど無色透明で、無味無臭なのだ。
だからカクテルのベースとして重宝されるウオッカだが、
一方にフレーバードウオッカと呼ばれるものがある。

これは、辛口ブームが到来するずっと以前から
体を温めたり、風邪に効いたり、胃を丈夫にするために
言わば必然的に作られたウクライナウオッカのひとつだ。

赤唐辛子とパプリカの赤い色がなんとも幻想的。
瓶ごと冷凍庫でキンキンに冷やして、
ストレートで飲むのが、常道だ。
ピリリと引き締まった風味と、コクのある切れ味、
とろりとした液体は、辛味の中に、かすかな甘味さえ感じられる。

人は、「ウクライナの剣」と呼ぶ。

🍺🍺🍺🍺🍺 ペルツォフカ(ウオッカ) 🍺🍺🍺🍺🍺

博才がある輩はいるものである。

ファーマータナカは、もともとギャンブルは好きだが、博打打ちの才能は持ちあわせていない。
というより、冷静を装っているが、腹の中は煮えたぎり、
頭に血が昇って本来は身を持ち崩すタイプなのだが、
かろうじて今日まで持ちこたえてきたといったほうがよい。

H氏は、若いのに妙に年寄臭かった。
才能はあるようだが、世の中で成功するタイプには残念ながら見えない。

暇な時を見計らってくるのだろう、
彼と私の間には、無言のうちにバックギャモンが置かれる。
このゲームは正しく人生の縮図というより、人生そのものだ。
たった数分間のうちに、
たったふたつのサイコロで
歓喜と絶望が繰り返され、
最後は、私の息の根が毎回確実に止められる。
ファーマータナカの頭と腹の中は、唐辛子の山が燃えていた。

賭けられていたペルツォフカを、H氏はいつもニヤリと笑いながら飲む。
(2002/03/02記)

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スクリュー・ドライバー

ファーマータナカの迷酒珍酒カクテルストーリー。
(登場する人物物語等は妄想と願望の産物であり、実在の人物等とは一切関係ありません、たぶん)

Lady - Killer (レディー・キラー)とはそのものズバリ、「女殺し」という意味。
その代表的なカクテルが「スクリュー・ドライバー」だった。
過去形なのは、現代の女性はもはやこの程度を飲み干す事なんぞお茶の子さいさいであり、最近では「ロングアイランド・アイスティー」あたりがその本命と思われる。
これは、紅茶の色と味に似た強烈なカクテルで、そのレシピはドライ・ジン:15ml、ウオッカ:15ml、ホワイト・ラム:15ml、テキーラ:15ml、ホワイト・キュラソー:15ml、レモン・ジュース:15ml、シュガー・シロップ:1tsp、コーラ:適量と、全くもって掟破りのカクテルレシピとなっている。

さて本題の「スクリュー・ドライバー」とは“ネジ回し(ドライバー)”のことだ。
油田の労働者たちが、ウオッカとオレンジジュースを腰に下げたネジ回しで混ぜて飲んだことから、この名前がついたという。
元々無味無臭のウオッカとオレンジジュースの組み合わせなので、ここは甘味料の入った甘ったるいオレンジジュースは論外として、出来ればフレッシュな生のバレンシアオレンジを絞るか、せめて100%のオレンジジュースを使いたい。

🍸🍸🍸 スクリュー・ドライバー(カクテル) 🍸🍸🍸

食事も供するレストラン&バーには、2つのお客の波がある。
食事とお酒を愉しむ第1波、そしてお酒を愉しむ第2波だ。
週末を除いてその最初の波が来る前の言わば凪のような時間、A美は毎週同じ曜日、同じ時間、いつも一人で、同じ奥から2番目のハイチェアに座る。
端正な顔立ちにショートカットの髪と控え目なメイキャップが、その凛々しさを確かなものにしている。
リクルートスーツに近いその服装で、仕事帰りだということは明らかだ。
ちょっと近視なのか、微かに潤んだ瞳に視線が合うと、勘違いも甚だしいが一瞬ドキッとしたりもする。

「スクリュー・ドライバーを・・・。」

昨今女性も酒飲みになった。
レディーキラーも遠い昔話、今は下心大有りの男性諸氏が先にダウンということも多々散見される時代だ。

だが、彼女は違う。
この口当たりの良いカクテルが、もはや死語に近い「女殺しのお酒」と知らないで頼んでいることは間違いない。
その上、花に花言葉があるように、お酒には「酒言葉」がある。
「あなたに心を奪われた」という酒言葉を彼女はもちろん知らないはずだ。
彼女が告白すべき男性を前に、その意味を知ってこのカクテルをオーダーするにはもう少し時間が必要だと、バーテンダーの勘は勝手に決めつけている。
それでも、100年に一度位ファーマータナカへの告白があっても、世間様に特段の不都合はないだろうにと、そんな薄っぺらな空想を過らせながら、スミノフウオッカにオレンジジュースを注いでゆく。

「お待たせしました。」

あっという間に彼女の頬に赤味がさしてくる。
緊張の糸は少し緩むが、緩み過ぎることはない。

4大新卒間もないA美、大手のファミレスの店長が彼女の仕事だ。
しがない個人営業と、大手のチェーンレストランでは、比較するのもおこがましいが、その若さでそのノルマや労務管理の心労たるや並大抵ではないだろう。
途切れ途切れに差し障りのない会話はあるが、会社や売上やお客の話など突っ込んだ会話はない。
それでも、同業者としての連帯感というか、「あなたの大変さ解ってますよ。」というシグナルが、双方向に送られていく(と思う)。

間もなく、カップルやグループのお客さんがぽつりぽつりと来店し始める。
慌ただしくなる前のタイミングを狙って、彼女は会計を済ませる。

「お疲れ様でした。」

帰りしなにいつものありきたりの声をかけると、彼女は束の間の休戦タイムに、「頑張って下さい。」との無言のエールを背中に、ファーマータナカは今日も戦場へと向かう。

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